異界の料理店

type-A

出発前、冒険者の集うサロンでそこに足を踏み入れるべきでないという情報は得ていた。ウェブ上の一部コミュニティではレジスタンスが結成され、その恐ろしさが語られてもいた。それでもそこに行こうと決めたのは、冒険へのあこがれか、赤信号みんなで渡れば恐くない心理か、それともブログのネタ欲しさか、今はもう考えても仕方のないことだ。


私はそこにたどり着いた。


中を覗くと客が結構来ている。人間だ。私は出発時に組んだパーティーとともにその領域に踏み込んだ。


何というところに来てしまったのだ。そんな絶望感に襲われた。そこは、古くなり役目を負えたはずの油や長年タバコの煙に晒された部屋が発する香りで充満していた。通常なら私は2分ともたずその場を去るだろう。しかし、パーティーまで組んでここを訪れている。私たちはここで食事をするのだ。


お冷やが来た。冷たい普通の水だ。少しホッとしながらお品書きを見ると、豊富な品々が並んでいる。魅力的なのはその値段である。

	… コーラ 100えん …


時は夕刻だったが、私は朝から何も食べていないにもかかわらず、ダメージを最小限に食い止めるため、最もオーソドックスで無難な「中華そば」を注文した。お品書きの最初、左上の端にそれは載っていた。この位置、おそらく問題はない。


私よりも血の気の多い仲間達は強気に攻めていこうとしているようだった。一人が天津飯を食べたいということで、お品書きの中に見当たらず、どうもそれらしい「玉子あんかけ丼(読めない不思議な別名)」を注文したが、給仕に「天津飯?」と訂正されていた。


待っている間、店内の空気にやられて鼻がつまり、気分が悪くなっていった。ああ、いつここから出られるんだろう。お腹空いたな。結構お客さん入ってくるんだな。息苦しくないのかな。などと考えていた。


しばらくしてーー私にはとても長く感じられたがーー、次々と注文メニューが運ばれてきた。談笑しながら写メールなど撮りつつ、全て揃うのを待ってから、私たちは運命の「いただきます」を唱和した。



生姜入りお湯+麺+旨味を抜かれた焼豚




これが中華そばの印象であった。


(つづく)