モモ

エンデ全集〈3〉モモ
児童向け小説というが、とてもシリアスな内容だと思った。時間についての活き活きとした捉え方があって、それはファンタジーだけどとても示唆的で、むしろ現実の当たり前の時間感覚の方がひどく一面的に思えてくるほどだった。*1


「時間は人間の生活そのもの」という一節を通して、時間は時計が独りで刻んでいくようなただ流れていくものではなくて、人間が積極的にねじを巻いて進めるものという考えが浮かび上がってきた。


大人は時間をかずで計算して、無駄の無いように自分のワークルーチンを当てはめて流れに身を任せるが、実は人間にとって(あるいは記憶の中で)そんな急いだ時間は意味が薄められて殆ど止まっている。一方、時間を忘れ想像力溢れて遊ぶ子どもたちは、沢山の時間をあっという間に過ごしたように思っても、時間の流れがくっきり心に刻まれていく。人間にとって存在感や重みの感じられる時間は、豊かな生活ということにも繋がってくる。


大人の時間が速く進んでしまう理由の、一つの真実の姿を見た気がした。


モモは時間の源泉に赴くが、そのくだりにエンデの人間観が垣間見えるようだった。たった一人の時間ですら一瞬一瞬があらゆる宝を超越したような巨大な存在であり、それを感じ取ることがいかに人に勇気や希望を与えるか。圧倒的な人間賛歌だ。


暗い話題で持ちきりの最近の子ども達は『モモ』を読んでいるだろうか。

*1:末尾の解説にエンデのファンタジー観が少し紹介されるが、よく理解できる。